警察庁は2026年9月15日、「令和8年夏期における山岳遭難の概況」を公表した。夏期(7〜8月の2か月間)の山岳遭難は発生件数763件、遭難者839人で、このうち死者・行方不明者は52人だった。数字は速報値で、前年の夏期(808件・917人)より件数・人数ともに減っている。
都道府県別の発生件数は長野県の129件が最も多く、静岡県71件、富山県65件が続く。遭難の態様は転倒が193人で最も多く、年齢層では60歳代が183人で最多だった。
これから紅葉の時期に入る。長野県警察は「令和8年秋山情報」を出し、日没の早さや、天候が崩れたときの寒さなど秋山特有のリスクを挙げている。この記事の数字は警察庁の資料(PDF・統計データCSV)、秋山の注意点は長野県警察・長野県の公式資料に載っているものだけを書いた(2026年9月30日時点)。

令和8年夏期の山岳遭難は763件・839人、前年の夏より減った
警察庁の資料は、夏期を「7~8月の2か月間」としている。通年の数字ではない点に注意したい。過去5年の夏期の数字は次のとおり。
| 夏期(7〜8月) | 令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | 令和7年 | 令和8年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 発生件数(件) | 668 | 738 | 660 | 808 | 763 |
| 遭難者数(人) | 786 | 809 | 736 | 917 | 839 |
| うち死者 | 42 | 52 | 48 | 48 | 46 |
| うち行方不明者 | 3 | 9 | 4 | 6 | 6 |
| 負傷者 | 324 | 351 | 325 | 409 | 403 |
| 無事救出者 | 417 | 397 | 359 | 454 | 384 |
前年対比は、発生件数が−45件(−5.6%)、遭難者が−78人(−8.5%)、死者・行方不明者が−2人(−3.7%)。警察庁は「発生件数及び遭難者数ともに昨年に比べて減少した」としている。一方で、令和8年の839人は、表の5年間では令和7年の917人に次いで2番目に多い。
都道府県別では長野県129件が最多、静岡県71件、富山県65件が続く
統計データ(CSV)の都道府県別の表から、発生件数の多い5道県を抜き出した。
| 都道府県 | 発生件数(件) | 遭難者数(人) | 死者 | 行方不明者 | 負傷者 | 無事救出 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 長野県 | 129 | 138 | 13 | 1 | 66 | 58 |
| 静岡県 | 71 | 73 | 2 | 1 | 41 | 29 |
| 富山県 | 65 | 73 | 3 | 0 | 40 | 30 |
| 山梨県 | 43 | 44 | 4 | 0 | 28 | 12 |
| 北海道 | 39 | 44 | 1 | 0 | 24 | 19 |
長野県は遭難者138人のうち死者13人・行方不明者1人で、発生件数・遭難者数・死者数のいずれも全国で最も多い。
態様別では転倒193人が最多、道迷い166人、滑落131人が続く
遭難者839人を態様別にみると、転倒が193人(構成比23.0%)で最も多い。道迷い166人(19.8%)、滑落131人(15.6%)、疲労122人(14.5%)、病気111人(13.2%)と続く。「その他」の116人の内訳には、転落17人、野生動物襲撃10人、落石7人、悪天候3人、落雷2人などが含まれる。主な6区分(道迷い・滑落・転倒・病気・疲労・その他)のうち、前年より増えたのは滑落(126人→131人)だけだった。
目的別では登山が686人と最も多く、次いでハイキングが31人。これに沢登り25人・岩登り7人を加えた大きな区分の「登山」は749人になる。山菜・茸採りは12人、観光は22人だった。
野生動物襲撃の10人がどの動物によるものかは、警察庁の資料には書かれていない。クマの出没状況はクマ出没警報・注意報の県別一覧に、キャンプ場で守ることは秋キャンプの熊対策2026にまとめている。
年齢層では60歳代183人が最多、50歳代・70歳代も160人台
年齢層別では、60〜69歳が183人(21.8%)で最も多く、50〜59歳が168人(20.0%)、70〜79歳が167人(19.9%)で続く。3つの年齢層を合わせると518人で、遭難者全体の6割を超える。
前年と比べると、40〜49歳が111人→79人(−28.8%)と減った一方、20歳未満は49人→57人(+16.3%)と増えている。70〜79歳は166人→167人でほぼ横ばいだった。
「減った」は夏の2か月の速報値、通年の数字とは別もの
今回の数字は、7月と8月の2か月間だけを集計した速報値だ。年間の山岳遭難の件数とは集計の期間が違うので、同じ土台で比べることはできない。警察庁は通年の数字を「令和7年における山岳遭難の概況等」として別に公表している。
また、9月に入ってからの遭難は今回の数字に含まれない。紅葉シーズンの遭難については、長野県警察が前年秋(令和7年9月〜11月)の傾向をまとめている(後述)。
警察庁は遭難の原因を「知識・経験・体力の不足等」とし、5つの対策を挙げる
警察庁は資料の中で、山岳遭難の多くは「天候に関する不適切な判断や、不十分な装備で体力的に無理な計画を立てるなど、知識・経験・体力の不足等が原因で発生している」と書いている。そのうえで次の5点を挙げる。
- 的確な登山計画と万全な装備品等の準備:気象条件や体力、技術、経験、体調等に見合った山を選び、休憩時間を確保した余裕のある日程にする。エスケープルートを事前に把握し、最新の気象情報を確かめる
- 登山計画書・登山届の提出:家族や職場等と共有し、登山口の登山届ポスト、インターネットや登山地図アプリで都道府県警察・自治体などに提出する
- 道迷い防止:地図とコンパス等を携行して常に自分の位置を確認する。登山地図アプリと紙の地図の併用で、より正確に位置を把握できる
- 滑落・転落防止:滑落・転落するおそれがある場所を通過するときは「必ずヘルメットを着用する」
- 的確な状況判断:霧(ガス)や吹雪などによる視界不良や体調不良のときは、道に迷ったり冷静さを失ったりして滑落などの危険が高まる。「道に迷ったかも。」と思ったら闇雲に進まず、歩いて来た道(トレース)を辿って正規の登山道まで引き返し、早めに登山を中止する
携帯電話については、GPS機能付きなら現在地を救援機関に速やかに伝えられるとしつつ、「多くの山岳では通話エリアが限られることやバッテリーの残量に注意する必要がある」としている。単独登山は「トラブル発生時の対処がグループ登山に比べて困難になることが多い」とも書いている。

秋山は日没が早く、天候が崩れると真冬並みの寒さになる(長野県警)
長野県警察の「令和8年秋山情報」は、秋山は周期的な晴天に恵まれやすく登山に適している一方、「日没時刻が早く、天候もひとたび崩れると真冬並みの寒さになるなど、秋山特有のリスクがあります」と書いている。この時期は「滑落や道迷い、低体温症、準備不足による行動不能など」の遭難が多発しているという。
同じ資料によると、長野県内の令和7年9月〜11月の秋山登山の遭難83件のうち、転・滑落が22件、転倒が21件、疲労・凍死傷が16件だった。紅葉の見頃に「観光の延長で入山すると、慣れない山道で滑落や転倒により負傷し遭難してしまいます」とも注意している。
資料が挙げる秋山の注意点は、おもに次のとおり。
- 日没時刻を考慮する:特に樹林帯は暗くなるのが早い。「日帰りの予定でもヘッドライトやビバーク装備、非常食は、必ず携行しましょう!」
- 天気予報を確認し、荒天時は中止・撤退を判断する:北アルプスなどの高山では氷が張ったり雨が雪に変わったりすることも珍しくない。予報に「低気圧の通過」「寒冷前線の通過」「寒気の流入」「一時的な冬型の気圧配置」などの用語があれば、山は吹雪などの大荒れの天気になるとし、視界不良による道迷いや低体温症の危険性が高いとしている
- 山小屋・テント場の営業状況を確認する:「9月下旬から、多くの山小屋が営業を終了し始めます」。夏は水量のある水場でも、秋には涸れている場合がある
- 難易度を十分に落とした山を選ぶ:「信州山のグレーディング」などを参考に、自分やメンバーの力量より難易度を下げる
長野県の指定登山道は登山計画書の届出が義務、オンラインで出せる
長野県では、県内の「指定登山道」を通行する場合、長野県知事あての登山計画書の届出が条例で義務付けられている。県はオンラインでの届出を推奨していて、「ながの電子申請サービス」のほか、県が届出先とみなす団体として山と自然ネットワーク「コンパス」と「YAMAP」を挙げている。FAX(03-6862-5035)や登山口のポストでも出せる(ポストがない登山口もある)。
長野県警察の秋山情報は、作成した登山計画書を家族や友人にも渡して共有するよう呼びかけている。単独で遭難して救助要請ができない場合は「登山計画書や家族等からの通報が唯一の手掛かり」になるからだ。長野県以外の山に行く場合は、行き先の県警察や自治体の案内で提出先を確かめたい。
きのこ採りの遭難は死亡率が高い、単独での入山を避ける
長野県警察によると、令和7年9月〜11月にきのこ採り中の遭難が11件起き、遭難者11人のうち7人が滑落等で亡くなった。過去5年間のきのこ採り遭難者67名のうち死者は27名(40%)で、60代以上の割合が非常に高いという。
県警は、単独での入山や入山後の単独行動を避けること、入山場所と予定を家族に伝えること、携帯電話(GPS機能をON)とヘッドライトを持つこと、急な斜面に入り込まないことを挙げている。熊などの野生動物に備え、「鈴やラジオなど音の出るものを携帯しましょう」としている。
出かける前には、長野県警察の「山岳情報」ページで秋山情報のほか、県内の山岳遭難発生状況の「週報」を確認できる。ほかの県の山に入るときも、行き先の県警察の山岳情報を見ておきたい。
情報源
- 警察庁 生活安全局生活安全企画課「令和8年夏期における山岳遭難の概況」(令和8年9月15日、PDF) https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/chiiki/r8_kaki_sangakusounan.pdf(2026年9月30日に閲覧)
- 警察庁「令和8年夏期における山岳遭難の概況(統計データ)」(CSV) https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/chiiki/r8_kaki_sangakusounan_data.csv(2026年9月30日に閲覧)
- 警察庁「山岳遭難・水難」 https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/sounan.html(2026年9月30日に閲覧)
- 長野県警察「令和8年秋山情報」(PDF、山岳情報ページに掲載) https://www.pref.nagano.lg.jp/police/sangaku/documents/r8akiyama.pdf(2026年9月30日に閲覧)
- 長野県警察「山岳情報」(2026年9月28日更新) https://www.pref.nagano.lg.jp/police/sangaku/(2026年9月30日に閲覧)
- 長野県「登山計画書を届出しましょう」(2026年7月23日更新) https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/smartphone/tozankeikakusho.html(2026年9月30日に閲覧)









